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夏の大会が近付く七月下旬の全校朝礼、先頭に座り学級委員長を努める林田に話しかける。
『元気か?』
今まで野球の話しで刺激しないようにしてきた。
だけどこれだけは言っておきたかった。
『夏の大会、見に来て欲しいんだ。』
林田は、
『はい。分かりました。』とだけ答えた。
その話し方や笑顔は前と変わらない林田だった。
夏の大会。
今まで9人丁度で多くの練習試合をしてきたため、ピッチャーの新井は連投が原因で肩を壊していた。
チームに嫌な雰囲気が漂っているのがわかった。
『ここまで来たら気合いしかないっしょ(笑)』
チームメイトに心配かけたくなかった。
しかし空気を察した三年の島田が、初回からヒットで出塁。
続く谷籐がヒットで点を取ってくれた。
ピッチャーにとって、この一点がどんなに精神的に楽にしてくれるか、はかりしれない。
実際にその一点で、調子が上がるピッチャーは多い。
しかし体は正直だった。
ヤル気だけが空回りし、僕らの夏はあっけなく終わった。
『会わせる顔がない…』
越生の観客が待つ広場に林田がいた。
『林田、ごめんな。俺の力不足でお前に勝ちをあげられなかった。』
林田は泣きながら言う。
『ありがとうございます。感動しました。来れてよかったです。』
林田を抱き締め、背中を叩く。
それだけで通じるものがあった。
新井は笑顔で別れた。
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