275人が本棚に入れています
本棚に追加
青く澄み渡るのどかな空、小鳥が涼やかな鳴き声を響かせながら、空を羽ばたいていく。
風が緑の木々を揺らして、平和な時を駆けていく。
魔王という人類を脅かす存在も、勇者によって倒され、平和な時が巡る。
この緑豊かな国は、ゆっくりとした時間を過ごしていた。
そーっと…そーっと…
足音を忍ばせ、扉へと近づき、カチャリと小さな音をたてて、扉を少し開け、外を覗き見る。
周囲確認…よし。
誰もいない。
扉の外へと足を踏み出し、自室から抜け出し、広い廊下をヒタヒタと足音を忍ばせて歩く。
ピタリと開け放たれた扉の前で一度足を止め、ゴクリと喉を鳴らして唾を飲み込むと、あたしは一気に振り返りもせず、その扉の前を横切った。
壁に背をつけ、鼓動を押さえながら、バレてはいないかと室内の物音に耳をそばだててみる。
「今…、姫が横切ったような気がしたが…気のせいか」
室内から、メイドたちをまとめ、あたしのお目付け役でもあるルウォークの声が聞こえた。
よしっ。気がついていないっ。
今のうちだっ。
あたしは内心、ガッツポーズを決めながら、更にスタスタと早足で城内を歩き、使用人たちの使う裏の出入口から、城の庭へと飛び出した。
一先ず、脱出成功といったところだろうか。
1番厄介なルウォークの部屋の前さえ通り過ぎることができれば、あとはなんとでもなる。
庭に出てしまえば、あとは見張りの兵士にさえ見つからなければいいのだし。
この城は平和ボケしているから、見張りの兵士をまくのなんて簡単よ。
あたしは大きく伸びをして、ドレスの袖に隠していた鍵を手にし、城の庭にある武器庫へと向かう。
武器庫といっても、この平和な世の中、兵士の練習用の剣がおかれている倉庫なくらいで、たいしたものは入っていない。
お姫様だってね、剣の稽古くらいしたいのよ。
踊りだの作法だの、そんなのはもう嫌ってくらい勉強させられているんだから…。
武器庫を漁り、女の非力なあたしでも使えそうな剣を見つけると、それを脇に抱え、小走りに庭を抜けて城の外、森へと向かう。
か弱いお姫様なんて、今時流行らないってば。
最初のコメントを投稿しよう!