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森は静かな空気を保ち、木漏れ日が優しく肌を撫でる。
「ルウォークの小言はうるさいし、剣を教えてくれなさそうだし…、やっぱり我流でやるしかないよね」
あたしは呟きながら、剣に巻いた布をほどき、鞘から剣を引き抜く。
細身だけれど、キラリと光る剣先。
練習用の剣にしては、とても切れ味がよさそうだ。
あたしは部屋から眺める兵士の稽古を頭に思い浮かべ、剣を両手でしっかりと握ると、近くの木に向かって振り下ろした。
「はっ!!………って、いったぁ~~いっ!」
すぐに剣を伝って、木の幹の硬さが手に伝わり、あたしの手を痺れさせてくれる。
くっそぅ。どうしてもっと優しく受け止めてくれないのよぉっ!
あたしは痺れた手を振って、再度、剣を握り直し、木の幹に向かっていく。
「えいっ!!……っ!」
またあたしの手を痺れさせる衝撃が手に伝わってきた。
負けてやるかぁっ!!
負けず嫌いなあたしは、何度も何度も木に向かって剣を振り下ろした。
「そんなんじゃダメだって。おまえ」
ふいに声が聞こえてきた。
若い男の声だ。
「誰っ?どこにいるのっ?隠れていないで出てきなさいっ」
あたしは焦りながら、ぎゅっと剣を握り直し、声を荒げてあたりを見回す。
人影は見えない。
豊かな森の木々の影、人の呼吸を探るように目を配る。
エリザベス様は姫様なのだから、賊に狙われる可能性だってあるでしょう?
そんなルウォークの小言が頭の中に聞こえた気がした。
だって…、でもっ!
あたしは好きで姫になったわけじゃないっ。
賊なら…あたしが倒してやるっ!!
警戒心剥き出しのあたしの背後、ガサリと音がして振り返ると、あたしが切りつけていた木の枝から、ひょいっと軽々と男が飛び降りてきた。
「っ、…!」
あたしは男に向かって剣を構える。
男は一つも表情を変えることなく、あたしに軽く笑ってみせる。
「俺の名前はペイ。おまえは?」
「あっ、あんたなんかに名乗る名前なんてないわよっ」
「そっちが名乗れって言ったんだろ?人の名前聞いておいて、自分は名乗らないのかよ?」
ペイの言葉に、そのなんでもないことのように放つ言葉に、
「……リジーよ」
あたしはそう名乗った。
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