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姫様…なんて自己紹介できるはずもない。
エリザベスって名乗れば、姫様だってバレてしまうかもしれない。
ペイが賊か一般人かはわからないけれど、あたしに危害を加えるつもりはないらしい。
姫様だってバレたら、賊でも一般人でも、何をされるかわかったものじゃない。
「リジーか。よろしくな。で、おまえ、その剣、レディソードだろ?こんないい剣に、そんなドレスで剣の修業か?」
ペイはあたしの手にある剣と、あたしの姿をジロジロ眺めながら聞いてくる。
ええっ?この軽くてすぐ壊れそうなの、いい剣だったのっ?
それにドレスは…これでも質素なのを選んできたつもりなのに…。
「剣はっ…かっ、家宝よっ!!」
言い逃れにしては自分でも苦しいと思う。
でもそう言うしかなかった。
一般の家庭には、だって、こういう剣、あんまりないんでしょ?
「…家宝ねぇ…。まぁ、いいや。修行ならつきあってやろうか?」
ペイは下心あるのかないのか、家宝という言葉に軽く呼吸をおいただけで、笑顔であたしにそう聞いてきた。
うっ。
確かに…人が相手のほうが、木の幹叩くよりは…。
それに…ペイの腰には、それなりに使い込まれた剣がある。
会ったばかりで、よく知らない人だけど…。
「お、教えてくれるのなら…、うれしいと思うけど…」
あたしは悩みまくりながらそう答えた。
ペイの頬の筋肉が緩む。
その笑顔が、うれしそうに見えて、あたしはなぜかはわからないけど、ドキドキして目を逸らす。
「よし。決まりな。明日の朝、またここで」
ポンッと軽くあたしの頭を撫でるように叩いて、ペイはあたしに手を振って町に向かっていく。
「えぇっ?今日教えてくれるんじゃないのっ?」
あたしはペイの背中に向かって声をかけた。
「俺だって忙しいんですぅ。誰かさんが俺の昼寝の木をバシバシ叩きやがるから目が覚めちまった。また明日、絶対来いよ」
ペイは軽く笑って言うと森の木々の間に消えていった。
明日って…、明日また来れるかなんてわかんないのに…。
あたしは何も言えずに、ペイの背中を見送ってしまった。
来れない理由を聞かれると困る。
あたしは手にした剣を鞘へと戻して、一つ息をつく。
……修行…、したいな。
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