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ペイと出会って、剣の稽古をつけてくれることになって、あたしは城を抜け出すことが多くなった。
籠の中の鳥…。
されど、そうそう城にいないことに気がつかれることもない。
あたしはあの細身の剣を抱えて、ペイの待つあの森へと向かって走る。
服だってドレスと言われるものじゃないものをがんばって選んでみるけれど、あたしの衣装部屋には庶民の服というものはないみたい。
何を着ても、そんな動きにくい格好で…ってペイに言われちゃう。
裾を軽く手で掴んで持ち上げて、転ばないように走って…ほら、見えた。
今日もペイはそこにいてくれる。
「遅い」
少し不機嫌そうに言葉を発するものの、ペイの大きな手の平は、あたしの頭を撫でる。
あたしはその手が、どこかくすぐったく感じて、なぜか照れてしまう。
「ごめん。えっと…、とりあえず素振りします」
あたしはペイに一言謝ると、剣を隠すように巻いた布を解き、剣を出す。
ペイに教わった剣の握り方、振り下ろし方を頭の中で描きながら、剣を構える。
「なぁ、おまえさ、実はどっかの貴族とか?」
ペイがふいにあたしに聞いてきて、あたしは小さく動揺。
「貴族…ではないけど。ペイは?普段は何をしているの?」
平静を装う。
貴族ではない。王族だ。
言えるはずもないけれど。
「俺?俺は小物作って売って生計たててるよ。あぁ、過去、盗賊なんてやってたもんだから、手先は器用なほうなんだ」
ペイは剣を持つ手を軽く見つめる。
盗賊…。
身軽なのは認める。
目利きができるのも認める。
けれど、ペイは盗賊らしくはないと思う。
あたしの剣を奪うこともないし。
あたしが今持っているもので高価なものって、きっと剣くらいだ。
「…城に盗みに入ったことってあるの?」
あたしはなんとなく気になって聞いてみた。
「この国の城?あるぞ。けど、あそこ、質素で何も盗むものなかったし。警備も甘いし」
うっ…。確かに…絢爛豪華な城とは言い難いわよ。
けど、でも、それは王、父様のお考えのもと。
国を潤すために税を使い、人々の笑顔を得るため…。
あたしは、そんな父様のお考えは素晴らしいと思う。
決して他国に自慢できるものなんかじゃない気もするけれど。
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