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ある日、あたしとペイが剣を合わせて稽古をしていると、空から獣がペイの頭の上に降ってきた。
「いってぇっ!」
ペイは当然のことのように痛がりながら、頭上の獣を手にする。
あたしもその獣を覗き見る。
丸い耳と長いふわりとした尻尾。
背中には小さな羽が生えている。
「この子、セイリールだ…」
あたしはセイリールをペイの手から受け取り、手に集中して、回復魔法を唱えてみる。
怪我は…ないみたい。
ペイの頭にぶつかって気絶でもしているのかな?
「セイリールって?」
「神聖動物、セイリールよ?この国、シシルの守護動物。めったに見ることもないのよ」
あたしはペイに説明をしながら、セイリールの体を優しく撫でてやる。
かわいい。
毛並みの柄はシマリスみたい。白と黒だけど。
「へぇ。売ればいい金になりそうだな」
「ちょっと…。神聖動物を売り払うなんて罰当たりよ?この子は元気になるまであたしが面倒みるの」
「ちっ。んじゃ、名前は?」
あたしは少し考える。
「……エスナ。エリザベータ・エスナ・ディル・シシル。この国の女神様のお名前の一部をいただきましょう」
あたしはセイリール、エスナの体を優しく撫でながら、そう名付けた。
エスナはその目をゆっくりと開いて、あたしの指先に顔を擦りつけてくる。
「あ。気がついたみたい」
あたしの言葉にペイがあたしの腕の中のエスナを覗き込むように見て、それに気がついたエスナは、その背中の羽を羽ばたかせてペイの肩に乗り、ペイに顔を擦りつける。
とても人懐こいみたい。
ペイはエスナを指先で撫で、笑顔を見せる。
あたしはその笑顔にドキッとして、ペイから顔を逸らす。
だって…、ペイの笑顔は…。
あたし…どうしてこんなにドキドキしちゃうんだろう…。
「かわいいな、こいつ。…そうだ。町にいこう。リジーとの親睦を深めるためにも」
「えっ?ま、町…?」
町…、あたしの顔を知っている者がいたら…。
ううん。でも、あたしの顔なんて町の人は遠くからしか見たことないはず。
「嫌なのか?」
ペイの言葉にあたしは顔を横に振る。
「ううん、いくっ」
あたしは剣を鞘にしまい、隠すように布を巻きつけて、準備を始めた。
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