魔王が遺したもの

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ペイについて初めて街中を歩く。 こんなふうに歩いたことなんてない。 城から出たことも、こうしてペイと剣の稽古をするようになるまで稀で、町みたいな人がたくさんいるようなところにはいかなかった。 だって、ルウォークがうるさいくらいに 『エリザベス様は姫という自覚をお持ちになってください』 なんて言うんだもん。 あたしだって自覚がないわけじゃない。 だからこそ、人込みは避ける。 なんかまちがっているような気がしないでもないけど。 姫ということがバレなければいい。 あれ?違う? だって姫って思われると、人々の態度は変わっちゃうんでしょ? あたしは普通がいい。 普通でいい。 特別扱いなんてされたくもない。 ペイは人込みを上手に歩いていく。 あたしは人にぶつかりそうになりながら、その見慣れた背中を追いかける。 ペイのように、あたしを特別扱いしない人がいい。 ペイも、あたしが姫だって知ったら、態度かわっちゃうのかな? でも…、ペイが誰かを敬う姿なんて想像できない。 ペイは店の扉の前で立ち止まり、あたしが追い付くのを待っている。 「おまえ、人込み歩くの下手だな」 ペイは呆れたように言う。 「慣れてないんだから仕方ないじゃない」 あたしは頬を膨らませて抗議。 「この町に住んでいるんだろ?だったら慣れているはずなのに」 「うるさいなぁ」 「いつも俺が家まで送るって言っても、先にスタスタ帰るし。どこに住んでいるんだよ?」 「ほっといて。で、ペイはあたしをどこに案内するつもりなの?」 あたしは話題をかえるように聞く。 だって、あまり詮索されると…絶対ボロが出る。 城下町さえも、あたしはあまりよく知らないもん。 地図の中でなら、このあたりに何があるとか教えてもらったことはあるけれど。 「またはぐらかす。別にいいけど。ここ、俺がいつも来ている店」 ペイは看板を指差す。 酒場…? えっと…きたことない…のは当たり前。 あたしはペイについて、その店に入った。 中は昼間だというのに薄暗い照明だけ。 賑やかな音楽とお酒の強い匂いと人々の笑い声。 なんだかこわくて、ペイの背中の服をぎゅっと掴む。 ペイはそんなこと気にもとめていない様子で、店内を見回し、カウンターへと向かっていく。
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