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翌朝、起きたクリスにおばさんはお弁当を持たせて、いってらっしゃいって言ってくれた。
クリスは急いで旅の準備をする。
家を出るときに、おばさんはしつこいくらいにクリスにしなきゃいけないこととか、しちゃいけないこととか言って、なんだか微笑ましかった。
「わかったからっ。ちゃんとお姉ちゃんたちの言うこと聞くっ。危ないことはしないっ。もういってもいい?」
クリスは頬を膨らませて言い、おばさんはそんなクリスを抱きしめた。
「本当に気をつけるんだよ、クリス」
「う、うん…」
照れたような顔を見せてクリスは頷き、おばさんはあたしたちのほうに向き直ると頭を下げた。
「どうかクリスをよろしくお願いします」
そんなふうに頭を下げられると困る。
俄然がんばらなきゃって思っちゃう。
クリスは元気におばさんに手を振って、あたしたちはその村を出た。
村に入るときとは大違いの晴天。
しばらく歩くとクリスは疲れてきたように遅れてきて、ペイはそのクリスの体を抱き上げ、肩の上に乗せる。
「ペイお兄ちゃんっ、僕、まだ大丈夫だってば」
クリスは恥ずかしそうに言って、まわりにいるあたしたちを見る。
「遠慮するなよ。旅はまだまだ長いんだし、な」
「うん…。ありがとう。ペイお兄ちゃん」
「ペイが疲れたら、オレがおぶるから」
ミシェルの言葉にペイはきらりと目を光らせ、クリスの体をミシェルの背に乗せる。
「疲れたぁ。ミシェル、交代な」
はやっ。
「ちょっ、ペイっ。おまえ、最初からそれが目的だったのかっ?」
「さあね。ほら、とっとといくぞ」
ペイは早足で歩き出して、ミシェルは慌てたようにクリスを背負ってついていく。
あたしとメリーは顔を見合わせて小さく笑って、のんびりとその後を追った。
まだまだ先は長いけど…、ゆっくり…、ゆっくりね。
だって…、勇者様に会って、魔王の思念をクリスからはらってもらったら…、もしかしたらクリスは…消えてしまうかもしれないから。
それは嫌だけど…、考えられなくもないこと。
今のクリスの体は魔王の思念があるからこそのものかもしれない。
ねぇ、エリザベータ様。
あたしは、クリスを苦しめたくはないよ。
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