魔王が遺したもの

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「あら。ペイ、いらっしゃい」 そんな明るい女性の声が、ざわめきの中で聞こえた。 あたしは不安げにあたりをきょろきょろと見回していた。 「セレティ。俺がプレゼントしたアンクレット、ちゃんとつけてる?」 いつになく甘えた声のペイの言葉が聞こえた。 いや、あたしは聞いたことのないペイの声だ。 あたしはペイを見上げ、ひょこっとペイの背中から顔を出して、ペイの会話の相手を見る。 え…? 「もちろんつけているわよ」 「また客にとられたぁとか言うんじゃないのか?」 「そうなったら、またペイに作ってもらうわよ。……あら?いらっしゃい」 彼女、セレティはあたしに気がついて、あたしににっこりと微笑みかけて声をかけてくれる。 その色っぽい唇…、だけど、その鼻は、動物。 顔も人間の皮膚だけじゃない。 産毛というには濃い毛。 髪は肩までの黒い軽くウェーブがかった髪。 けれどその頭には動物の耳。 細い肩から下は体にピッタリとした服を着て、とてもスタイルがよくてきれいなんだけど、お尻から尻尾がのびて、ゆらりと軽く揺れている。 黒猫…。 聞いたことはある。 この町には、魔王によって半獣化にされた人が住んでいるって。 それは魔王が倒されて治るような病みたいなものではなく、こうしてその姿のまま生きていかなければならない。 セレティさんをぼーっと眺めていると、もう一度セレティさんがあたしに微笑みかけた。 あたしは慌てて、ぺこりと頭を下げる。 半獣化されていても、綺麗な人。 きっと、もとは本当に綺麗な人だったんだと思う。 「何飲む?お酒は…合わないかしら?」 セレティさんはカウンターの中へと戻り、ペイのグラスにお酒を注ぎ、あたしの前にグラスをおいてくれる。 「ガキだからな、こいつ。酒の味なんてわからないって」 ペイが意地悪く笑いながら椅子に座り、お酒の注がれたグラスをあおる。 むぅっ。馬鹿にして。 あたしだってお酒くらい飲めるもんっ。 「いただきます」 あたしが言いながら椅子に座ると、セレティさんがグラスにお酒を注いでくれる。 あたしはそれを手にとり、一口。 うぅっ!! あたしは一口飲んだだけでグラスをおいて、口を押さえた。 なに、これっ?まず… 「ほらな。お子様はジュースでも飲めよ」 ペイは笑いながら言う。
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