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斑はグレイにそう言ってポケットから煙草を一本取り出し、口にくわえて火を付けた。
「そんなことを言っても私は斑さんの傍を絶対に離れませんから」
めげないグレイは荷物を床に置いて斑へと歩んでゆく。
「なら、その荷物を減らしてくれ。後に苦労するのはお前だぞ」
「……そうですね。現地に着いたら移動に困ることになりますし」
少し考え込むグレイの頭の中では、死と生を選ぶほどの激しい葛藤が起こっているのは、その表情を見ていたら一目瞭然に窺えることであった。
「……残念ですが、斑さんの言う通りに荷物を減らします」
ようやく観念したのかグレイは悲痛の表情を浮かべながら大半の荷物を部屋の隅に追いやり、背負っていたリュックだけを携えている。
「それでは行くぞ。早く出なければ時間に間に合わない」
それを見て見ぬ振りをする斑は自分の荷物を手に取り、部屋を立ち去ろうとする。
「待ちなさい!まだ朝食が残っています!」
怒鳴るようにグレイは叫び出し、斑の襟首を鷲掴みにして逃さないようにした。
「……まだ覚えていたのか」
顔を真っ青にする斑は恐怖に声を震わせている。
「斑さん、私の朝食は愛情だけが詰まっていますから安心して召し上がってくださいね」
その笑顔は誰もが心を許すほどの愛らしさがあるが、それを見た斑は顔を強張らせていた。
それは今から自分に訪れるであろう、絶対の死の恐怖が斑の体を硬直化させるにまで至ったのである。
「それでは行きましょう!早くしないと料理が冷めてしまいますよ」
そのままグレイは斑を引き摺りながら、自分が用意した食事の場(処刑台)まで連れて行く。
「ちょっちょっと待て!グレイ、早まるな!話し合えば妥当な解決策がある!」
そして、その屋敷からは男の悲痛の叫び声と女の高らかな笑い声が絶え間なく響き渡っていた。
………
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