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――3――
「おい!本当にあんな奴が今回の標的なのか!」
黒いフードを被った長身の男が刺々しく怒鳴り声を上げた。
「ああ、あの者が我らの主となりうる資格を持つ者だ」
そしてもう一人の赤毛の男は双眼鏡を覗きながら静かに呟く。
「あの優男が?何かの間違いだろ!今の当主の命令でこの国まで来てみれば、あんな情けない男の見張りだなんて……」
黒いフードの男は苛立ちながら地を蹴り、愚痴をこぼしている。
「いや、あの者の過去の依頼から得た情報からすると、我々を遥かに凌ぐ実力を有しているはずだ」
この不気味な格好の二人の男は山の中で身を潜めながら、遠くに存在する廃れた屋敷の様子を窺っていた。
「あの者の名前は紫堂斑、主に暗殺の依頼を請け負う仕事をしている。生まれは不明、年齢も不明、名前以外のことは全て謎に包まれている」
「それはどういうことだ?お前の情報力なら分からないことなんてこの世に存在しないだろ」
黒いフードの男は驚きの表情を浮かべて赤毛の男に問い掛ける。
「……僕がどれだけ調べてもあの者の詳細は出てこなかった。過去を辿ってもそれらしき情報は一つもない」
赤毛の男は神妙な表情で黒いフードの男を見つめ、その異常である事態を静かに伝えた。
「……嘘だろ?」
それを聞いて唖然とする黒いフードの男は、思わず確認してしまうほど驚きを隠せていない。
「嘘ではないよ。何せ三ヶ月を費やして調べた結果、これだけのことしか判明できなかったのだから僕自身が混乱している」
頷く赤毛の男の眼には悔しさと屈辱の色が濃く表れている。
「当主の命令では"試せ"としか言われていないが、どうするつもりだ?」
そう尋ねた黒いフードの男は、先ほどの荒い態度とは違って今は緊張感に満ちていた。
「迂闊に手を出せば危険だな。情報が足りなさすぎる」
「なら、今は観察と尾行をして奴の情報を得るのが先か……」
「そうだな。先ほど手紙を残しておいたので僕達のことを薄々気付いているみたいだから警戒させたままにしておこう」
そして赤毛の男は双眼鏡へと視線を戻し、僅かな情報でも得ようと神経を張り巡らせる。
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