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――1――
一人の青年が、花に囲まれた庭で横になり、目を閉じながら朝陽を全身で受け止めている。
その青年は、とても気持ちの良さそうな表情で眠り、日頃の疲れを癒していた。
そして風が吹き、青年の赤茶色の髪を微かに揺らす。
黒い和服、腰に携えた刀、雪を想わせる白い肌は陽に焼けておらず、青年からは不思議な雰囲気を漂わせていた。
「斑さん!目を覚ましてください!」
自分の名を呼ばれた青年は瞼をゆっくりと開き、青く澄んだ瞳が周りに咲いている多彩な花々を映し出す。
「もう!何でこんな場所で寝ているんですか!」
その女性は灰色の髪を揺らし、怒鳴りながら青年へと歩みを進める。
「……グレイ。起こすなら静かに起こしてくれ。……それに、そういう服は止めろと言っただろ」
青年は無理やり起こされたことを批判するが、その女性の格好を見た瞬間に呆れて溜め息を吐いた。
「何を言ってるんですか!この服はレア物なんですよ!?これを手に入れるのにどれほど苦労をしたか……」
その女性が纏う服は、白いポロシャツに丈の短いスカート、胸の中央には赤いリボンが結ばれてある。
「何故、学生服なんて着ているんだ?」
青年は女性の服が学生の制服であることに疑問を感じ、その意味を問い掛けてみた。
「ふふふ!聞きたいですか?」
「いや、いらない」
青年は即答した。
女性の誇らしげな表情は一瞬で変化し、まるで最愛の肉親が死んでしまったかのような悲しげな表情へと変わった。
「……私をあれだけ弄んでおいて、貴方は私を捨ててしまうのですね?……酷すぎる」
女性の言う有りもしない事実に、呆れて青年は無視をすることに決めた。
「鬼畜!外道!悪魔!変態!」
止まることのない女性の悪口は青年の耳に届くことはなかった。
青年は女性の存在を意識せず、再び花へと視線を戻す。
その美しい花々は青年が種を蒔き、長い時間をかけて育てあげたものである。
「君に見せてあげたいよ。この花はそのためのものだから……」
青年は空を見上げ、未だに見つからない愛しい者のことを思い出していた。
「斑さん!聞いているんですか!?私の武勇伝が気にならないのですか!?」
意味が理解できないことを言っている女性は青年に抱きつき、涙を流しながら訴えている。
青年は意識を戻し、その女性の泣きつく姿に苦笑しながらも問い掛けた。
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