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「それは後で聞かせてもらう。……ところでグレイ、何か話しでもあったんじゃないのか?」
青年の問い掛けに女性は何かを思い出したのか、青年から体をゆっくりと離し、哀れな表情を一瞬で真剣なものへと変える。
「あっ……そうでした。今朝、斑さんの家へ訪ねたら新しい依頼の要請が来ていたんです」
そして女性はスカートのポケットへと無造作に手を入れ、ある一枚の封筒を取り出して青年に手渡す。
それを青年は何気ない表情を浮かべながら受け取り、静かに封を切って中にある一枚の用紙を引き出した。
「………」
青年は手紙に綴られている内容に目を通して、まるで嫌なものを見たかのように眉間に皺を寄せている。
「今回の依頼はどういった内容なんですか?私がその封筒を見たときには送り主の名が書かれていませんでしたが……」
青年の表情を見た女性はその依頼の内容が気になり、緊張した声で問い掛けた。
それは、過去にどのような依頼の要請が送られたとしても、このように青年が険しい表情になることは今までに一度もなかったからである。
「……グレイ。お前は"白眼の死体売り"という者を知っているか?」
問いかけた内容とは違って青年の言う言葉は、女性には聞き覚えのないことであった。
「いいえ、私はそのような人は知りません。それに……その趣味の悪い名前は何ですか?」
問い返した女性はその青年が言った者の名前を聞いて、嫌な顔を見せながら目を閉じた。
「俺も知らん。まぁ、お前も目を通してみろ」
青年は女性に手紙を手渡し、その内容を把握させようとする。
女性はその手渡された手紙を広げ、慎重になりながら眼を落とした。
「……これは何ですか?依頼主の名前が書かれていませんし、それにこの内容……理解できません!」
女性はその意味不明な手紙の内容に声を張り上げて、それを青年へと突き返した。
「その送り主はふざけていますね!名前もない、依頼内容もない、ただ書かれているのは住所と意味のわからない一言だけ!何ですかその『白眼の死体売りの暗殺依頼』の一文は!?」
激怒する女性はその場に存在しない者に対して批判を並べ、周りに怒鳴り声が響き渡らせていた。
「……頼むから少し落ち着いてくれ。お前の声で耳が痛い……」
青年は悲痛の表情を浮かべながら女性の怒鳴り声に耐えきれずに耳を塞いでいる。
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