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「……は?ナイクルライヤ?」
女性は呆気にとられながら思わず青年の言葉を繰り返してしまった。
「知っているだろ?三年前の戦争で滅亡してしまった異国のことだ」
「もちろんです。あの錬金術が発祥した国ですよね?でも、近年になってから衰退して錬金術という力を扱う人は少ないと聞きました。それに、何故滅亡した国から斑さんに依頼の手紙が送られて来たんでしょうか?」
「確かに、ナイクルライヤの現在の情勢では考えられないな。独立国家であったナイクルライヤは他国との勢力争いで敗れてすでに名だけの亡国になっている」
かつては栄えていた美しいナイクルライヤの国を思い出して、青年は現在の情景について思考を巡らせている。
「ええ、それに制圧された国民には規制が強要されてほとんど自由がない状態ですし、他国に手紙を送ることは考えられません」
「なら、現在の国を治めている"イズベル共和国"の軍部の者か、あるいはナイクルライヤの残党の者しか考えられないな」
イズベル共和国との戦争で敗北したナイクルライヤ国には過激派である残党が生き残っており、今もテロ行為や暗殺などの反逆行為で抵抗をしているのであった。
「今ここで推測をしても埒が明かない。実際にナイクルライヤへと行ってこの手紙を送った者に話を聞かなければならないな」
この意図の掴めない依頼は現地に訪れてみなくては到底理解ができず、この場でいくら話し合おうと答えは出せない。
「いつ頃にナイクルライヤへと向かいますか?」
「明日の朝からこの国を離れる。グレイ、早く戻って出掛ける準備をするぞ」
そう言った青年は女性を置いて歩を進め始めた。
「待ってください斑さん!私を置いて行かないでくださいよ!」
女性は慌てて立ち上がって青年へと駆けながらその姿を追う。
その場を去る二人の背景には廃墟のように聳え立つ古い教会が静かに佇み、その周りの庭には色鮮やかな花々が咲き誇っている。
その神秘的な風景はその二人の男女を見送るかのように花々は緩やかな風に揺られていた。
………
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