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――2――
晴天の空が広がり陽射しが秋間矢の地を照らしている。
そして、その街の人並み外れた雑木林の一角には古ぼけた屋敷が存在していた。
それを初めて目にすれば誰もが廃墟や幽霊屋敷だと勘違いしてしまうだろう。
しかし、信じられないことにそこには人が住んで生活しているのである。
その屋敷は大きいとは言えないが、一般的な家と比較すれば何ら変わりはない。
だが、それらとの様相は全く異なり屋敷の外見は見る限り異様であった。
屋根の一部が剥がれ落ち、壁には無数の風穴が空いていて酷い有り様である。
しかし、現在その屋敷の中には一人の女性が台所に立って数ある食材と奮闘していた。
切り刻まれた野菜は歪な形、フライパンで焼いた肉は炭のように黒く変色、鍋は火を噴き上げその場を地獄とさえ思わせるほどの怪奇な光景である。
それを女性は料理という行為だと思って勘違いを起こし鼻歌を口ずさんでいた。
「今日の朝食の献立は野菜炒めとグレイ特製味噌汁です。きっと喜んでくれることでしょう!」
女性は何を根拠に言っているのかわからないが、一般的に見れば理解不能の域に達している。
灰色の髪をリボンで束ねて楽しそうに調理をしている女性の名はグレイ、何故かカチューシャを頭につけ白いエプロンに黒い服のメイド姿であった。
「さぁ、出来上がりました!早く斑さんを起こさなくては!」
完成した黒い固形物をテーブルに並べたグレイはある所へと走り出す。
台所を出たグレイは斑の眠る寝室へと直行、その恐ろしいほどの走る速さは尋常ではない。
階段を駆け上がり、寝室の扉を蹴り破る。
「ご主人様、朝食のお時間でございます!起きてください!」
グレイは部屋に入り込んだ瞬間に斑の眠るベッドへと飛び込んだ。
しかし、そこには斑の姿はなくグレイは落胆しながらも周りを見渡した。
「……斑さんはどこに行ったのでしょうか」
―――――その時。
「グレイ、何をしているんだ!早く出掛ける支度をしろ!」
グレイが背後を振り返るとそこにはスーツを着た斑の姿があった。
「はっ?今日は何処かへお出かけですか?」
グレイは首を傾げながら斑の言った意味を理解できていない。
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