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「……試された死は間近に身を潜めている」
その綴れている内容は意味の解せない気味の悪い一文だけだった。
それを読んだ斑の表情は何故か歓喜に満ち、歪な形に口元をつり上がられていた。
その手紙には先日と同じように宛先人の名前は書かれておらず、その奇妙な一文しか書かれていなかった。
「今回の依頼はただの暗殺依頼ではなさそうだな。この手紙に書かれている内容を見ると俺は試されているのか?」
首を傾げて手紙を凝視する斑は思わずその体を震わせていた。
しかし、それは恐怖や緊張という不安から来るものではなく、今から起こるであろう予測された出来事に気分を高揚させた身震いであった。
そして手紙を封筒の中へ戻し、斑は自らの懐に入れて嬉しそうに呟いた。
「どういった企みがあるかは知らないが、俺を試そうなど愚かなことだ」
「斑さん、出掛ける準備が整いましたよ!さぁ、早く愛の逃避行へと旅立ちましょう!」
そこで支度を終えて戻ってきたグレイがその場の空気を簡単にぶち壊してしまった。
「そうか、それでは行くとする……なっ!」
巡らせていた思考を止めて斑はグレイへと振り返った瞬間、途中まで出していた声が驚きに変わり果てる。
「斑さん!何故朝食を食べてないのですか!」
グレイのその姿は斑を必然に唖然とさせる。
「お前……本気でやってるのか?」
その姿は見るに耐えない艶めかしい太股を露わにしたチャイナ服姿であった。
それにグレイの背には巨大なリュックが背負われており、両手には幾多のバックが無数にぶら下げてある。
「ええ、これで私のコレクションは全部です!これさえあれば斑さんとの夜の営みも万全にお相手できますよ!」
言葉では意味不明なことを言っているが、その荷物を苦しそうに抱えているグレイにはそんな余裕は一つも感じられなかった。
「そんなに荷物はいらん。お前はナイクルライヤにでも移住するつもりなのか?」
斑はグレイの言ったことを半ばほど無視をし、溜め息を吐いて頭を抱え出す。
「何を言っているのですか!常に乙女は美しさを保たないといけないのですよ?」
唇を尖らせて反論を叫ぶグレイは呆れて俯く斑へと訴える。
「……グレイ、お前とは短い付き合いだったな。もう二度と会うことはないだろう」
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