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知ってる。
病んでるんだろ?
寒ぃな…て思った。
三月はまだ肌寒く、おまけに此処は吹きさらし。背をもたせ掛けているフェンスが風避けになる筈もなく、尖った空気が肌をちくちくと刺した。目前に横たわる夕焼けが暖かい気がして、今すぐ身を投げてしまいたいと思う。
「足…震えてやんの」
気持ちとは裏腹に、足は根でも張ったかのようにコンクリから離れなかった。この世に未練なんて大有りさ。それでも死んだ方がマシだと思うくらいに辛いから、今無人の校庭を眼下に見下ろしているんだ…
「何やってんの、宮島」
背後から声がした。
声で誰かは判ったけれど、振り返ったのは、彼がどんな表情をしているのか見てみたい…そんな好奇心に突き動かされた所為だろう。
「見りゃ判るだろ」
ポケットに両手を突っ込み、いつもと変わらないけだるげな態度と冷めた表情で、千裕はそこに立っていた。
「ナンデ?」
「……」
何でって、辛いから?でもそんな一言に収まり切らない想いが胸の中を渦巻いている。気がつけばフェンス越し、千裕はすぐ傍まで近づいていた。
「理由は原?」
鼓膜を擽る名前に、愛おしさが込み上げてきて…奥歯を噛み締る。
親友の原に、中学の頃からずっと片想いしてる。でもこの気持ちは口が裂けても言えない、だって俺は男であいつも男だ。苦しくて堪らなくても、伝えて嫌われるくらいなら死んだ方がマシ。「好き」なんて言葉じゃ全然足りない、原のことが俺は
俺は…
目から熱いものが、頬を掠めてハタリと落ちた。と、ほぼ同時に背後でガシャガシャとフェンスが大きな音を立て、ドスンと隣に千裕が降ってきた。
「一緒に飛び降りるよ」
「……」
そう言って立ち上がる千裕の、俺より少し高い位置にある双眸を見つめる。ふと、左手に温もりを感じて視線を落とせば、千裕に手を握られていた。
「連れションならぬ、連れ自殺?」
「心中でしょ」
「え?」
「原のいない所でお前と二人なら、別に死んでもいいや」
そう言い放つ横顔を呆気に取られ見つめていたら、俺の視線を知ってか知らずか千裕は小さく微笑んだ。
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