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  小五のとき、 或クラスメートがいた。 彼は、姿勢の良い細身の体躯にさらさらの黒髪、そして小作りな顔に不釣り合いなほど大きな眼鏡をかけた、真面目を絵に描いたような少年だった。当時、同じクラスの男子数人から虐めを受けていた彼を、俺は仲の良い友人とツルみながら、庇ったり庇わなかったりしていた。 大きな眼鏡が空の下で七色に光るから、彼を「蜻蛉」と呼んだ。 蜻蛉は本を読むのが好きだった。俺が漫画ばかり読む隣で、芥川龍之介や司馬遼太郎なんかをよく読んでいた。教室に居場所のなかった彼がいつも図書室にいたことを、俺は誰にも教えなかった。 「津田」 「…あ、お前」 蜻蛉? 十年ぶりの再会は同窓会の席で。目の前でゆったりと微笑む艶やかな美青年に、あんぐりと口を開けた俺はさぞ間抜けな面をしていたことだろう。 「蜻蛉だろ?」そう尋くと、薄い唇が「そうだよ」と綺麗な弓なりになる。 俺達は友達じゃなかった。蜻蛉はどこか信用できないところがあったし(俺が虐められている彼を必ずしも庇わなかった理由はそこにある)、それに不思議と安定していた互いの距離を、敢えて縮めようとは思わなかった。蜻蛉も同じように感じていたんじゃないかと思わせる…信頼ではなく言葉にはできない関係がそこにはあった。 「蜻蛉、変わったな」 「そう?どこが」 「眼鏡が小さくなった」 蜻蛉の笑い声は耳に心地良い。その手に握られていたコップが空になっていたから、手近にあったビールを注いだ。ふと周囲を見れば、既に出来上がってる奴が何人かいるようだ。日付も変わろうかという時刻。座敷のあちらこちらに寝そべっているのが、ひぃふぅ… 「君は変わらないね」 「ここに来てすぐ、誰だか判らないって散々言われたけどな」 「外見はともかく」 少し離れた両隣からも、背後からもざわざわ話し声が聞こえる。今夜は同窓会があるからと明け方までレポートを書いていたせいだろうか…込み上げてきた欠伸を噛み殺した。飲み過ぎるほど飲んじゃいないのに、  
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