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学校の最寄駅に変質者が出る…と噂されたことがある。
電車通学だった俺は、だが、それらしい人影を一度も見たことはなかった。
その代わり、
気味の悪い担任の姿は何度も見かけた。
撫でつけられていた前髪が、一房はらりと零れる。敷島の眼鏡を片手で弄びながら、彼の目が綺麗なことに気づいている人間が、果たしてこの学校に…自分以外にいるだろうかと、ふと考えた。
「先生は、ラブストーリーがお好きなんですね」
「……」
「お借りするDVDの内容が、どれもロマンチックだから」
「…っ」
相変わらず俯いたままの敷島の耳が、徐々に赤く染まるさまに
肩に縋りついてくる手の震えに、嗜虐的な快感が胸の中心を捕えて突き抜けていく。
初めは、敷島が件の変質者なのかと思った。何せ俺の見かけた彼は、駅のベンチに腰掛け、下校中の生徒を何時間も眺めていたり、自動販売機の影から駅前を盗み見たりしていたものだから…(加えてあの容姿だし?)
だから
まさかそれが、心底純粋に生徒の身を案じての行動だったなんて…思いもしなかったんだ。
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