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幸いかどうか、私の死を嘆き悲しむような女人(にょにん)もいない。
……女人……か……。
数えで十八、通う女は何人かいたが、そのいずれも私の子を孕(はら)むことはなかった。
唯一の心残りがあるとすれば、この手で我が子を抱くことができなかったことだろうか。
ゆっくり目を閉じる。
瞼の裏に浮かぶのは、もう二度と叶うことのない夢。
私と、私の愛する妻と子と、ささやかながら幸せなひとときを……。
不意に、一筋の涙が頬を伝う。
――次の瞬間。
踏み台が兵士によって蹴り払われ、私の意識は途絶えた。
―結―
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