夜の悉(よのことごと)

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【紫草のように美しいあなたが憎かったら、すでに人妻であるのに、どうしてこんなにも恋い慕うことがあるだろうか】 「おぉぅ」と場内がどよめいた。 その大胆で美しい返歌は、その場にいたすべての者の心を魅了したようだ……私と父を除いては。 私には分かってしまった。 歌を詠み終え、ふと視線を落とした大海人さまが再び額田を見た時、その視線には間違いなく熱いものが含まれていた。 額田もその想いを真正面から確実に受け止めている。 二人が交わした歌は決して余興などではない。 ……そして、父もそのことに気づいている。 父の前でそんな大胆な真似ができる二人も信じられないが、それ以上に、父がこの二人に対して何も言わないことが不思議でならない。
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