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「体調が悪いのに無理に話に付き合わせてしまい、申し訳ありませんでした。けれど、久しぶりに語らうことができて嬉しかった。どうか、早く良くなってください。また元気な鏡どのにお会いできる日を楽しみにしています」
「私も、天皇さまにお会いできて嬉しゅうございました。もう何も……」
そこで鏡は言葉を切った。
天皇を心配させたくなかったからだ。
疲れたように静かに目を閉じて、寝たふりをする。
その後もしばらく鏡を見つめていた天皇であったが、やがてゆっくりと立ち上がり、部屋を後にした。
天皇の気配が完全に消えた後、ふいに蝉の鳴き声が鏡の耳に届いた。
天皇と話をしている間はまったく気がつかなかったのに……と思いながら、目を開けてゆっくりと窓の方に顔を向ける。
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