泡沫(うたかた)の契り

29/29
前へ
/191ページ
次へ
  地上での蝉の命は一月(ひとつき)だと聞いた。 この鳴き声が聞こえなくなると同時に……いいえ、その前に、私の命はなくなるだろう。 けれど、最後にあの人と話すことができて良かった。 すべてを伝えることができて良かった……。 鏡は顔を戻すと再度目を閉じ、静かに呟いた。 「……もう何も、思い残すことはございませんわ……」 翌日、鏡がなくなったとの知らせが天皇のもとに届いた。 息を引き取った時、その顔はとても幸せそうに、ほんのりと微笑んでいるように見えたということだった。 ―結―
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加