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父が葛城に虐(しいた)げられ失意のうちに亡くなると、私は自身の保身のために狂人を装った。
狂人……というのは少し語弊があるかもしれない。
鬱(うつ)の症状といったほうがいいだろう。
塞(ふさ)ぎ込み、一日中意味のない独り言を呟く。
それが当時の人間には“くるいびと”と映ったらしい。
あくまでも振りではあったが、本当に気が狂いそうだった。
むしろ、狂ってしまったほうがどれほど楽だっただろう。
だが、私は理性を失うことができなかった。
それがどんなに辛く苦しいことか、誰に理解できようか。
そして、私はだんだん、狂人の振りをすることに疲れてきてしまった。
油断……だったのかもしれない。
葛城に歯向かおうなどという覇気(はき)は、当初から持ち合わせていない。
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