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彼は私の耳元で囁いた。
――現王朝を倒すのは今しかない――と。
“対外防備”という名目による大王(おおきみ)の建築狂いで、国費と労力が湯水のように使われ、人民の怒りはもはや限界に達している。
今、大王家は皆で紀の湯に湯治に出かけており、都は手薄の状態。
このような好機は二度とないと、赤兄は私に力説した。
人民の不満、それは私も十分理解している。
だが、私とて皇族の人間、実の伯母である大王に反旗を翻(ひるがえ)す気など毛頭ない。
ましてや、あの葛城がいるというのに、そんな恐ろしいことができるはずもなかろう。
それに、赤兄の言うことなど信用できるものか。
私は赤兄に、そのような物騒なことを起こす意志は一切ない旨を、はっきりと伝えた。
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