霊柩車

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朝になってKさんは、両親に昨日の夜クラクションの音を聞かなかったかどうか尋ねました。 二人は知らないといいます。 あれだけの音を出していて気づかないわけはありませんが、両親が嘘をついているようにも見えないし、またつく理由もないように思われました。朝になって多少は冷静な思考を取り戻したのでしょう。 Kさんは、あれはもしかしておばあちゃんを迎えに来たのではないかという結論に至りました。 彼女にはそれ以外考えられなかったのです。 しかし、おばあちゃんは相変わらず「元気」なままでした。 翌日の夜にも霊きゅう車はやって来ました。 次の夜もです。 Kさんは無視しようとしたのですが、不思議なことにKさんが2階から車を見下ろさない限り、クラクションの音は絶対に鳴りやまないのでした。 恐怖でまんじりともしない夜が続いたため、Kさんは次第にノイローゼ気味になっていきました。 7日目のことです。両親がある用事で親戚の家に出かけなくてはならなくなりました。本当はKさんも行くのが望ましく、また本人も他人には言えない理由でそう希望したのですが、おばあちゃんがいるので誰かが必ずそばにいなくてはなりません。Kさんはご存じのようにノイローゼで精神状態がすぐれなかったために、両親はなかば強制的に留守番を命じつつ、二人揃って車で出ていきました。 Kさんは恐怖を紛らわそうとして出来るだけ楽しいTV番組を見るように努めました。 おばあちゃんの部屋には恐くて近寄りもせず、食べさせなくてはいけない昼食もそのままにして放っておきました。 さて両親は夕方には帰ると言い残して行きましたが、約束の時間になっても帰って来る気配がありません。 時刻は夜9時を回り、やがて12時が過ぎ、いつも霊きゅう車がやって来る時間が刻一刻と迫ってきても、連絡の電話一本すらないありさまなのでした。 はたして、その日もクラクションは鳴りました。 Kさんはそのとき1階にいたのですが、間近で見るのはあまりにも嫌だったので、いつもの通りに2階の窓から外を見下ろしました。
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