血明

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「――君は駄目だよ」 「え?」 献血に行こうと端の列に並ぼうとしたジュディの肩をカレンが掴んだ。 「君はもう既に昨日したじゃないか。 検査の所でバレるよ」 「えっ、ですけど……」 「貧血で倒れでもしたら余計迷惑が掛かるだけだ」 「ぁぅ………」 そう言われては何も返せず、ジュディは小さくしょげてしまうも「あ」と手を合わせる。 手前奥の処置室に瞳を移し、 「なら私アレックスさん達の方へ手伝いに……!」 「君はここで私と大人しくしてろ!」 騒ぎの時にゾンビ達が大通り南側にまで進行してこれなかったのは正に不幸中の幸いであった。 医療区間が塞がれていては、最早手のつけようがなかったのかもしれないが、なんとかここだけは荒らされずに済んだ。 だが昨日の件の上にこの事態だ。 薬が足りなければ血も足りない、ないしそもそも処置する医師が足りない。 「こういう事は、知識のある彼等に任せるべきだよ」 「ぅ~………確かにそうですけど」 「……君も懲りないね」 「ちょっくら行ってくるわ」 まるで小間程度のようにそう言って消えて行ったアレックスのその姿は、カレンの視点から見ても(というかどう見ても)元医師としての面影などは無く。せいぜい看護士達に笑顔で蹴飛ばされながら処置室から出て来るものだと思っていたが………中々どうして、戻って来ない物だなと。 「アレックスさんは、他人よりもまず先に自分の怪我を治療するべきだと思います」 「………そうだね、私もそう思うよ」 ………全く彼は。 呆れながらも、それでもほんの少しだけ彼を見直してしまったのも事実だ。 余り他人の為に動いてくれるような人間には見えないが、やる時はやるという事だろうか。 「…………カルロスさんは……まだですかね」 カルロスもカルロスで決して軽い怪我等ではない。 本人は「平気」の一点張りであったが、いくら彼とて無茶をし過ぎである。 せめて最低限でも検査をしておいて損は無い筈だ。 無論、カレンはカルロスが何故あそこまで治療の拒否をしたのか、その理由を知らない―――いや、気づかない訳ではない。 カレンは淡く吐息を吐き出す。 二人ともそれとなく合わせるように手前の彼女に目をやる。
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