プロローグ

2/3
710人が本棚に入れています
本棚に追加
/392ページ
初代国防長官にジェームス・V・フォレスタルが就任する際、彼には強大な権力を与えられた。 陸海空軍に対して絶対的な指揮権を持つ―――『裏の役者的』には頂点に位置する存在だ。 歴代アメリカ大統領の政治的権力にも勝る。 最も、民主主義のこの国では大統領に絶対的な権力など与えられる事は無いのだが……。 ともかく、現時点でも国防長官には最高の権力を与えられている。 「この問題を過小評価するのは、あまり賢明ではないと私は思います」 続けて眼鏡の男がそう言った。 「問題は極めて軽いものですが、それゆえ適切な処置を怠ってしまう物です。 ここはやはり、サンプルとその周辺関係者全員を『処理』する方針が宜しいかと……」 この男は極めて公平な意見を出す。 昔から彼の働きぶりには感心してばかりだ。 先日のテロ事件―――あくまで表面上での名での話だ―――では、彼は素晴らしい活躍をしてくれた。 報道対策アドバイザーとの面識のある彼は、その知識を用いて国が予め買収しておいたネットワーク数社が同情的な報道するように手配し、その反、逆に陰謀説をわざと報道させるよう残りの数社に手配させた。 読みは当たり、今や陰謀論はネットワーク上でのお伽話と化している。 予め真実を見せておくことで、視聴者の判断を盲目化させる方法は実に合理的だ。 『感服する』と言ってもいい。 更に運がいいと言うべきか悪いと言うべきなのか、あの事件をきっかけに人々の記憶の中には完全に消費され尽くしてしまった。 いまや、『ゾンビ』という話題が世間の関心の的なのだ。 「処理……か。 計画はどうするつもりだ? サンプルから採取した寄生体はダグラスのせいで既に海の藻屑だ」 「どうせならサンプルその物を使ってみるのはどうだ? これ以上時間を掛けるのも問題がある」 確かに……。 面長の男が頷く。 「計画自体が振り出しに向きつつある現状なら尚更……だな」 「なら、サンプルの生命活動を停止させた後、回収するというのは…」 眼鏡の返しに反論したのは赤髭の男だ。
/392ページ

最初のコメントを投稿しよう!