始まり

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夢を見ていたらしい。覚えてはいないけれど、断片的なシーンがフラッシュのように浮かんでは消えた。 日曜日の朝だ。 悪くない目覚めだった。目を覚ました途端に自分が巨大な毒虫になっているわけではなかったし、少し身体が痛む程度だ。 しばらくベッドから出ずに天井を眺めた。昔、父が言っていたのを思い出す。 「大人になって、歳をとると、妙に天井が気になるんだよ。自分の限界が見えてくるからな。その点お前はまだまだこれからだ。天井なんて見なくてもいいんだ」 僕は幸いまだその言葉を痛感したことはない。天井は煙草の脂で黄ばんでいる。僕の天井にもわずかながら汚れがついたかも知れないな。 寝返って時計を見る。8時42分。 ふむ、まぁ起きるのも悪くないな。 ベッドから出てキッチンに行き、ヤカンに水を入れ、湯を沸かす。 流し台からコーヒーカップを拾い上げ、軽く濯いでからスプーンを用意し、インスタントコーヒーを作る。 昔は苦く感じたコーヒーも、今ではブラック無糖で飲む。
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