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『あー楽しかった。お酒は久し振り』
『千里、大丈夫?タクシー拾うからちょっと待ってて』
私を支えながら樹里は心配そうに言った。
支えてくれる腕が温かくて安心出来て…離れたくなかった。
ただ、離れたくなかった。
『…まだ帰りたくない』
『え?何?』
呟いた後、ふと見た樹里の顔が険しくなっているような気がした。
そう思った途端、酔いが吹っ飛び恐くなった。
―私、今何を言った…?
血の気が引く、まさにそんな感じ。
『ご、ごめん!なんでもない!ごめんっ』
私は樹里から離れ、走った。
とにかく走った。
―どうしよう…私、なんて事…なんであんな事…
走りまくって駅に並んでいたタクシーに飛び乗った。
体の震えが止まらない。
溢れそうな涙を必死に堪えた。
何度もかかってくる樹里からの電話。
私は出る事が出来なくて、電源を切った。
気持ちを知られたのが兎に角恐かった…険しい樹里の顔が恐かった…。
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