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“ピンポーン、ピンポーン、ピポピポピンポーン”
インターフォンが響いた。
この独特な鳴らし方をするのは一人しかいない。
―朝っぱらから…
私は少し苛つきながら玄関の扉を重い気持ちで開けた。
『おはよう!』
やっぱりビンゴ。
目の前には明るく笑い、片手を挙げて立っている楓が居た。
『…おはよう、どうしたの?』
だらしなく頭を掻きながら問うと楓は私から視線を逸らして…
『千里さんを連れてきたの』
と、ドアの後ろに隠れていた千里を引っ張った。
『千里っ…』
私は目の前に俯き立っている千里の姿に驚いて体が硬直した。
『直ちゃんに頼まれてね、そんで連れて来たの』
楓も大体の事を聞いたのか苦笑を浮かべ、軽く千里の背中を私の方へ押した。
近付く千里。
私は思わずその体を抱き締めた。
力一杯。
それは言葉に出来ない程に溢れ出る気持ちから。
千里の体はとても華奢で、それがまた愛しく感じた。
まるで喧嘩をした愛しい恋人が帰ってきたような感じ…。
『っ…樹里…』
千里は涙声で私の名前を呟くように言い、腕を私の背中に回して…抱き締め返してくれた。
『えっと…それじゃあ、私も直ちゃん車で待たせてるから行くね?』
楓は気を遣うように小声で言うとその場からゆっくり立ち去った。
『あっ!楓、有難う!直美さんにも伝えといてくれん?』
私が楓の後ろ姿に向かって言うと、楓は笑って頷いた。
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