†雨のち晴れ†

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  私は千里を部屋の中へと入れた。 もう逃げられないように彼女の手を握って。   千里をソファーに座らせて私も隣に座った。     『…何か飲む?』     『ううん、いい。…ごめんね?』     首を振りながら謝る千里。 部屋に入ってから俯いたままで私と視線を合わそうともしてくれない。 私はずっと千里を見ているのに…。     『何で謝るの?』     『…昨日、あんなふうに帰ったから…』     『……うん。確かにショックだった。ねぇ?千里は私の事が嫌いになったの?』     『違う!』     『じゃあ、ちゃんと私を見て?』     私はゆっくり千里の顔を覗き込んだ。 やっと視線を合わせてくれた千里の瞳からは、ポロポロと涙が零れている。     『やっと見てくれたね』     私は微笑みながら千里の涙を指で拭った。     『ごめん…ごめんね…』     千里は私の手を取ってひたすら謝ってくる。 痛々しい程に体を震わせて…。     『千里…私ね、怒ってないよ?それどころか、今此処に千里が居てくれて嬉しいの』     ゆっくりと千里を引き寄せて震える愛しい人を抱き締めた。 千里は私にしがみつくように服を握り、声を殺して泣き続けていた。     『千里、私ね、千里の事が好きだよ。大好き…もう、逃げないで…』     泣き続ける千里の耳元で囁き、自然と抱き締めている腕に力が込もっていく。     『っ…ダメだよ…私に樹里は勿体無い』    私の言葉に千里は大きく首を振り、力任せに私から離れていく。     『そんな返事ズルいよ……』     私は強い人間じゃない。 千里の拒絶の言動に頭の中が真っ白になっていく。     ―千里となら幸せになれるかも知れない     知り合ってから2週間、いつの頃からか思っていた事。 それがガラガラと音を立てて崩れ去っていく。 まさにそんな感じだった。    
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