ヒトリメ

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「望むなら、一人だけ人を殺すことができる」 彼女はそう言った。あれは真っ暗な闇にぼんやりと月だけ浮かんでいるような、夜だった。僕が痛いや悔しいや泣きたいや歯痒いといった感情を押し殺して改札を通り抜け、やっぱりちょっと溢れそうな感情を鎮めるために駅の外のベンチに腰掛けて休んでいた時に、僕の目の前で彼女はそう言った。 それは僕と同じくらいの年齢の女の子だった。顔を上げると、月を背後に連れて、彼女はそこに立っていた。すらっとした体も、それを包む白いワンピースも、周りの灯りに照らされてやけにぼんやりとして見えた。まるで今日の月みたいに。 でも彼女の瞳は、まるで何百年も生き続けてきた蛇の瞳のように妖艶だった。その容姿からは想像出来ないくらいの圧力があった。ゆるやかな風に揺れる濃いブラウンの髪一本一本が僕を見つめている気がした。
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