旧ドリカム体制

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1998年ー春ー 岡村元樹。15歳。 元樹:「入学式は4月の8日です…準備するものは…」 母:「教科書類は全部お母さんが取りに行ったからね」 元樹:「もぅ~俺が自分で行くからいいって言ったのに!」 中学を卒業して高校に入学するまでの春休み。 俺は母親と家で"入学式のしおり"というものに目を通していた。 母:「雑巾も縫っておいたからね」 元樹:「100均で買うからよかったのに」 俺の家は母一人、子一人の母子家庭だ。 父は俺が小学2年の頃に交通事故で亡くなった。それからというもの母が一人で俺を育ててくれた。 母の職業は弁護士。 経済的には何の問題もなかったが、毎日が忙しくなかなか一緒にいる時間が少ない為、心配した母がいつも俺をおじいちゃんの家に預けていた。 小学校低学年となると母親を最も恋しがる時期だが、おじいちゃんっこな俺はいつもおじいちゃんと一緒に遊ぶのが楽しかった。 だから寂しい思いをした事など一度もない。 だが、父親が恋しくなる時は多々あった。 父の日にみんなでお父さんの絵を描くときや父親参観日という行事の時にうっすらとしか覚えていない父親の顔を描かなくてはいけない事が何よりも悲しかった。 そんな風に落ち込んでいる時はいつもこっそりとアルバムを取り出し写真の中に笑顔で写っている父親の顔を眺めていた。 小学1年の夏休みに 父親と2人で行った遊園地の写真。 アイスクリーム屋の前で俺と父親が楽しそうに写っている。 あの写真が今でも俺は一番好きだ。 父親の手にはチョコレートアイス。 俺の手にはバニラとストロベリー… あれ?そう言えばあの写真…俺は何でアイスを2つも買ってもらったんだっけ? 確か何かのご褒美で… 母:「あっ!!!」 元樹:「!?」 せっかく俺が記憶している唯一の父親との思い出にふけっていたのに母のとてつもなく大きな声に全部吹き飛ばされてしまった。 元樹:「何?」 "入学のしおり"を見ていた母親は顔色を変え"しおり"の文面を俺に向かって指差した。
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