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☆
私と壱は、家の近所のカフェに来ていた。
「私は抹茶シフォンとホットコーヒーで。壱は?」
「えっと、苺のショートケーキとミルクティーを」
畏まりました、と店員が去って行くと同時に、壱は私の目を見つめた。
「どうしたの?壱」
「……莉佳さんは、あの、彼の事、忘れられましたか?」
……彼。
「壱?どうして今、そんな事…聞くの?」
壱は少し目を伏せると、押し黙ってしまった。
「…壱?壱は私を心配してくれてるんだよね?私の幼馴染みだもんね…私は大丈夫だよ?…ありがとう」
「ち、違います!!」
バッと壱が顔を上げる。
普段吊り上がる事のない綺麗な眉が、少しだけ吊り上がっていた。
「僕はっ」
壱が何かを言いかけた時、至極単調な声で「お待たせ致しました」と、注文した品を店員が運んで来た。
「あ…、」
「壱?」
「いえ…頂きましょう」
「…うん」
壱の心配は、良く分かってる。あんな別れってないよね。……でも、本当に好きになった人だったんだよ。
だけど…忘れられない。
だから、忘れられない。
でも、大丈夫。今の私を創るひとつの思い出だもん。だから、もう大丈夫。
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