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「でー、これを代入すると答えはこうなる。…分からん奴居るかー?」
つまらない数学の授業を尻目に、[分かんなくても言わないっての]なんて悪態をつく私に、先生はわざわざ指名をくれた。
「よし、伊波。前来てこの問題やってみろ」
「………最悪」
「私はちゃんと、分からない奴は居るか、と聞いたぞ」
聞こえないようボソリと呟いたその言葉は、どうやらはっきりと数学教師に聞こえていたようだ。
仕方無く解き始めるも、思考の先に答えはない。
手がとまる。
終始ニヤニヤ顔で腕組みをする先生に、助けを求めよう…なんて気は起こるはずもなく、暫く立ち尽くす。
このドSめ。
「伊波さん、答えは28」
突然後ろから声が届くと、私は素直にその答えを黒板に書いた。
「…ちっ…」
数学教師からそんな舌打ちを耳にすると、右手で掃うように「さっさと戻れ」と席へ促される。
何、その不機嫌。
思いながらも、席へ帰る途中に、答えを教えてくれた最後尾の崎浜くんに両手を合わせて御礼を言うと、彼は『全然』と手を振った。
助かった!良い人だ、崎浜くん。
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