別れと思い出とはじまり

7/7
前へ
/85ページ
次へ
一条くんは「また今度、放課後にでも」と言って、図書館を後にした。 私が書棚への全ての返却を終える頃、既に崎浜くんの姿もなく、人も図書委員の壱と私、それに…憂木先生の3人になっていた。 先生と口を利くのも嫌になっていた私は、壱に後始末を頼む事にした。 「壱。私、先に帰るね…」 「あっ、莉佳さん?」 心配そうな壱の声も、今は聞こえないフリをする。 廊下に出て空を見上げると、もう夜になっていく時分だと気付いた。 色鮮やかな草花が、校内の外灯で少しだけ顔を見せた。 「伊波」 背中から少し遠く聞こえた声は、先生のものだった。 足音が、する。 「…………」 「怒ってんのか?」 「………」 私の足は動かない。 「こら。何とか言え、…よ」 先生の体は、いつの間にか私を追い越して。 先生の目は、いつの間にか私の目を見つめていた。 ふいに先生の手が頬に触れ、その優しい指で目尻を拭う。 「どうして泣く?」 「先生がっ、優しくないから…」 それを聞くと、苦笑か…自嘲とも取れる笑みを零して、先生は私の目尻にキスを落とした。 先生がわからない。 先生はまるで、飴と鞭。 ☆ .
/85ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加