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一条くんは「また今度、放課後にでも」と言って、図書館を後にした。
私が書棚への全ての返却を終える頃、既に崎浜くんの姿もなく、人も図書委員の壱と私、それに…憂木先生の3人になっていた。
先生と口を利くのも嫌になっていた私は、壱に後始末を頼む事にした。
「壱。私、先に帰るね…」
「あっ、莉佳さん?」
心配そうな壱の声も、今は聞こえないフリをする。
廊下に出て空を見上げると、もう夜になっていく時分だと気付いた。
色鮮やかな草花が、校内の外灯で少しだけ顔を見せた。
「伊波」
背中から少し遠く聞こえた声は、先生のものだった。
足音が、する。
「…………」
「怒ってんのか?」
「………」
私の足は動かない。
「こら。何とか言え、…よ」
先生の体は、いつの間にか私を追い越して。
先生の目は、いつの間にか私の目を見つめていた。
ふいに先生の手が頬に触れ、その優しい指で目尻を拭う。
「どうして泣く?」
「先生がっ、優しくないから…」
それを聞くと、苦笑か…自嘲とも取れる笑みを零して、先生は私の目尻にキスを落とした。
先生がわからない。
先生はまるで、飴と鞭。
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