過去と気持ちと縋る思い

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放課後。 前夜祭の準備に追われるクラスに、当たり前のように透子の姿はなく、私は小さな溜め息をつきながら図書館へ向かおうとしていた。 「あ、一条くん」 教室を出た廊下の先に、彼の姿があった。 「………」 彼は私に気付いていないみたいで、何かをじっと見ていた。 「これ、もしかして……」 「俺の絵だ」 一条くんは、背後から声を掛けた私に驚く事もなく、その言葉の続きを答えた。 「……………」 それきり何も言わない私に、一条くんは漸く振り向いた。 「…変、だろうか?」 「ううん。とてもきれい」 彼は、少し目を見開くと「…そうか」と少し照れたように、絵に視線を戻した。 美術部主催の展覧会に、一条くんの絵は出展するらしく、タイトルは『奇跡』で統一されている。 彼のいつかの奇跡が、こんなにもステキな絵を描かせてくれてるんだと、私は初めて目にする一条くんの絵を見ているだけで、幸せになれた気がした。 .
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