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時計の針が11時50分を指す頃、ようやく私達の朗読は終わった。
着ぐるみを着ての朗読は思いの外好評で、それを壱が着たとなれば女子は黙っていない。
壱は顔立ちも良いしモテる方だと思う。今も早速、壱が着ぐるみを脱ぐ前に写メをと、ケータイを持った女子に囲まれている。
「お疲れ様、伊波さん。結構好評だったね」
着ぐるみを脱ぎ終えた背中から霧生君の声がした。
「あっ来てくれたんだね。ありがとう」
「……早瀬ってモテるんだ?」
霧生君が私の向こうで囲まれている壱を見ながら言った。
「うん、そうだよー。本人は全然自覚ないけどね」
ケロっとそう答えると霧生は何故か苦笑して、早瀬に同情するよと呟いた。
「?…あ、美術部行かなくちゃ」
「展覧?」
「うん、そう。霧生君も行く?」
「いや良いよ。用があるから。ああ、ところで憂木知らないかな」
「……知らないよ」
心情とは食い違う表情で早口に答えると、霧生と目も合わさず莉佳は美術室へと向かった。
「そう……」
霧生は呟き、彼女の背中をしばらく見送ると、その後を追うように同じ道を歩き出した。
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