1。「ニューワールド翻訳事務所」

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これはまだ僕が静岡の田舎を出たばかりの19、20頃の若造だったことのお話である。 「とりあえず働きたくない」というとてもネガティブな感覚で仙台の大学校で歴史学を学ぶことになった僕は全くといってやる気がなかった。学業への高い意識、青春を謳歌する意志そういったものが僕には悉く欠落していた。 いろんな集団を回りの人間が作っていく中で僕はより一層固い殻を作り防御体勢を取った。だれも殻を壊さないということは分かっていたし、そんなものはこの世界において何の役にも立たないことは分かっていたが、そうすることで現実に対応する面倒な諸事と向き合うことがない安息感を得ていた。 しかしそんな風に夏まで過ごすと突如とした喪失感に苛まれた。全ての人間が経験していることを自分だけ経験していないという真実はじわじわと僕を侵食した。 だからといって僕はどうすることができただろう。今更、形成された集団に笑顔を振りまくことなどはできなかった。 僕はそうして再び逃げるように、とてもネガティブな感覚で翻訳事務所で働き始めた。
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