1。「ニューワールド翻訳事務所」

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駅傍にある雑居ビルの5階にある「ニューワールド翻訳事務所」は図書館の誰も知られない部屋のようなふるい本の匂いで充満した、全くニューでもワールドでもない事務所であった。 社員は2名ということだったが、経営者の顔は一度も見ることが無かった。もう一方は上山という、火事にあったばかりみたいに悲しそうな顔をする中年だった。彼は翻訳事務所の事実上の経営者であったが、翻訳能力が全く無く(彼が使える言語はエスペラント語と日本語の2ヶ国語のみだった)バイトを取り仕切る管理者として存在した。 僕以外のバイトは2人いた。劉という遺体みたいに無口な中国人留学生と島田という下を向いてずっと笑っている30過ぎの男だった。
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