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「フゥー…うまっ」
出されたジョッキを一気に飲み干すと、黒髪の青年は満足気に息をついた。
「良い呑みっぷりだな、兄さん」
余りにも旨そうに呑む青年に酒場のマスターがカウンター越しに声をかけた。
「あはは、お恥ずかしいですね。最近こういう機会が少なかったので…」
照れ臭そうにそう言いながらも、青年は更に追加オーダーをした。
「で?ここには誰か探しに来たのか?それとも…ネタ探しか?」
初老のマスターは青年の前に新しいジョッキを置くと、まるで値踏みをするかの様な目で彼を見た。
「え?何故それを?」
「あんた、店に入って来た時から周囲を気にしてたからな。…まぁ、こんな商売してりゃ自然と勘が働くもんさ。たまにきな臭い客だって来るしな」
「大した眼力ですね」
「そんな大層なもんじゃ無いが……だからな、兄さんもいい加減その妙に気取った喋りは止めな」
マスターの言葉に、ほんの一瞬青年の動きが止まる。
「柄じゃないんだろう?あんたの処世術か何かは知らんが、こんな酒場じゃ逆効果だ。お上品な振る舞いは逆に舐められるだけだぞ」
洗った食器を拭きながらマスターは軽く首を竦めた。
「第一俺が落ち着かねぇ」
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