魔王、地上に降り立つ

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闇の底、光なんてものは欠片さえも感じないような暗黒の世界。 何が食べ物で何が生き物なんて、この場所では対して重要ではない。食べられそうだったらそれが食べ物。息をしていたらそれが生き物。定義なんてものはどうでもよくて、自分の信じるものをそのまま受け止めると言えば聞こえはいいけど、単純に言えばすべてが適当なだけだ。 そんな世界に、僕はいる。 「あぁあありえな、い……!」 僕は絶叫し、床を這いつくばっていた。例えるなら芋虫のように。 暗闇でどこが床で、どこが天井なんてだれもわからないが、床は下にあるものだから多分下のが床だろう。 そしていつの間に出てきたのか、僕の側に一人の悪魔らしきじいさんが寄ってきた。僕が信じるのだから悪魔だ。 確かじいさんで、小さい頃から僕の側にずっといたから、多分世話係。名前は知らない。世話係だから名前も世話係だ、だって世話係だし。 「ありえなくはありませんよ、坊っちゃん。それは食べ物です」 「昨日まで俺が座ってたやつが!? 信じられないだろ、意味わかんないよ! どうして食べ物になったんだよ!」 叫びたいだけ叫んだら、また僕は頭を抱えたまま、芋虫も顔負けの早さで転がっていた。 辺りには僕が倒した、花瓶やら食器やらが転がっている。もしかしたらこの食器も明日には食べ物になっているかもしれない。 「食べれるから食べ物になったんでございますよ、坊っちゃん。それとそんなに転がってると芋虫になってしまいますよ、坊っちゃん」 「だからありえないんだよ!なんでみんな神経が図太いんだろう、ありえない!」 芋虫になる? はっ、もうどうせ手遅れだよ。床に転がった時点で僕は芋虫と定義されたんだ。いくらでも芋虫と呼べばいい。椅子を食べるくらいなら僕は草食になってやる。
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