寝起きから母に呼ばれるまで

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「じゃあ行ってくるよ」 キリっとした表情とグレーのスーツをビシッと着こなす姿は《社長》という肩書きに負けていない 「行ってらっしゃい」 僕には見せたこと無いような笑顔で父を送り出す母 母は父が出勤する時は 『行ってらっしゃい』 それ以外の言葉は言わない 「頑張ってね」とか「早く帰って来てね」という類いの言葉は母曰く 《不粋》 ということらしい 一家の長というのは、言われるまでも無く頑張るもので、疲れを癒しに帰って来る だから嫁は、早く帰って来て欲しければ美味しい料理を作って待てばいい だ、そうです ―バタン 母の柔かな笑顔は父の姿を見送り、玄関のドアが閉まると同時に消えた 「次の寝坊は朝飯だけで済むと思うなよ」 温度すら下げようかという母の言葉に冷や汗が出る 「肝に命じます」 3食抜かされては僕の成長は途絶えてしまい、それよりも何よりも母が怖い リビングに戻って行く母の背中に戦慄を覚える日曜の朝
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