狂いだす歯車

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空を舞う一つの影。 遠目から見るとただの人だが、同様に空を舞う人達は、それに気づくと、一目散に逃げ出す。 黒いローブに新品の仮面。 見事なまでに素顔を隠すのは、“ヤツ”しかいない。 皆は“ヤツ”の恐怖を知っている。 特に貴族には、浸透していると言っても過言ではない。 今は貴族ばかりだからといって、商人や農民達も油断はできない。 “ヤツ”の思考回路は誰も知らないし、分からない。 だから、“ヤツ”がいつ標的を農民層に変えるかも分からない。 いつ、殺されるかも分からない。 “ヤツ”が出没し始めてから、まだ一年も経っていない。 その僅かな期間の中で、“存在しない貴族”というのは絶対的な悪として君臨し始めていた。
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