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ハツは、飯沼家に出入りしていた微禄の会津藩士、印出新蔵の妻だった。戦火が若松城下に迫りつつあった二十二日、敵を倒すのだと言って猟銃を持って出て行った息子の八次郎が帰って来ないのを心配して、飯盛山の附近を捜し回っていたところ、まだ息のある貞吉を見つけたのだという。多量の出血だったが、発見が早かったのと、ハツの手厚い看護の甲斐あって、貞吉は一命を取り留めた。
気づいた時には、見知らぬ農家で介抱されていた。ハツの他にも誰かいたような気がするが、思い出せない。死に損なったことを痛切に悲観し、ハツが眼を離した隙に重傷の身で寝床を這い出して刀を探したが、見つけられず、傷の痛みと出血の為か、貞吉は再び昏倒した。大小を問わず、刀の類はすべて、ハツが何処かに隠してしまったらしかった。
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