第三章 酔っ払いのエレナ

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16歳でエレナは独り暮らしをして、自分の力だけで生きている。 いろんな事情が、あるのだろう。 深く立ち入って話を聞く程、俺は野暮じゃない。 また、まだ世間を手探りで生きている若い娘の孤独や寂しさを利用して媚を売る程、薄汚れてはいない。 俺にとってエレナは、妹分であり、この街で生き抜く仲間、かわいい後輩だ。 「エレナ、また飲みすぎたのか?」  よたよたと事務所のソファに座り込むエレナに声をかけた。 容姿をみれば、彼女もミングスである事が、わかる。 欧米系の血がつよいのだろう、彫りの深い顔立ちと長い手足は、中々のものだ。 「あのさ…」 彼女は、下を向いてなにか言いかけて言葉を飲み込む。 それから顔をあげ 俺に笑いかけた。 「やっほー、スナッピー!元気かぁ」 夜中の一時すぎに元気かぁかよ。 なにかあったらしいが 気がつかないフリをする。それがマナーってもんだ。 「ねぇ、この前ここで会ったケイって人、彼女?」 やはり酔ってる。 この年頃の娘の頭の中は、恋愛とお洋服で一杯なんだろな…ヤレヤレだ。 「前に説明したろ、あいつはガキの頃からのオサナなじみだ。彼女じゃないよ」 「それはさぁ、やっぱスナッぴがミングスで、ケイさんが純血の日本人だから?」 「いや、そんな事じゃないケイがそんな事を気にするならここには、来ない。」 日本人の中の一部にはミングスを軽蔑し差別するヤツもいる。 しかし、ケイはそうじゃない。長い付き合いでそれは、よく分かっている。 「ふーん、男と女の友情かぁ。なんか無理してるって感じィ。二人はお似合いだと思うよ、わたし」 まったくかなわない。 なんでも恋愛に結び付けやがる。 酔っ払い相手に説明も面倒だ。 「そうかい。ありがとう」と受け流した。 それから、しばらくのあいだ俺に恋愛の講義をしてくれたエレナは、 「まぁ、女心がわかるようになるようにがんばりなさい」と話を結んだ。 おいおい 酔っ払いのお嬢さん 俺は君の倍近く生きているんだぜ。 まぁ、こんなたわいのないエレナの話を 俺は嫌いじゃない。
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