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仕立てのよいチャコールグレイのスーツを着用し、上品な言葉を使う紳士然とした男の表情には、微笑が浮かんでいた。
誰なのか?
俺の知り合いではない。
このスラム地区の住民にも見えない。
スラムにありがちな悪党でもないようだ。
なぜ俺を知っている?
そんな俺の気持ちを見透かしたように男はこう言った。
「ご不審に思われるでしょう。しかし、これはケイ様もご存知の事でして…。」
これは、また意外な名前が出て来た。
「ケイ?あなたは、ケイをしっているのですか?」
「はい」
男は、微笑を絶やさぬままそう俺に返答をした。
「申し遅れました。私は、黒川の家に仕える倉田と申す者です。」
俺の前に差し出されたその名刺の肩書には
財団法人
【黒川会】理事
倉田 千三
と書いてあった。
なんの組織なのか?
この黒川会にも記憶がない。
「とにかく詳しい話を致しますので、私とご同行ねがえませんか?
あなたの将来にも関わる大事なお話です。
ケイ様もそれを望んでおいでと思いますが。」
あまり話は、見えてこない。
しかし、ケイの知り合いならば、この倉田と名乗る紳士の話を聞くのもいいだろう。
俺は、事の成り行きを見定める為、話に乗る事に決めた。
「わかりました。お話を
おうかがいしましょう。」
無言で倉田はうなずき
軽く右手をあげると、二人の前に車が静かに停まった。
その車に乗れという事らしい。
俺は倉田につづき、車にのりこんだ。
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