第四章 遺伝子を受け継ぐ者

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 車内の革張りシートに座った倉田は、車を出すよう運転手に合図を送る。 倉田は、お抱え運転手付きの車を持てる地位と立場にあるらしい。 倉田は、俺に尋ねた。 「さっそくですが、梶山様は【黒川財閥】をごぞんじでしょう? 我々はそのグループの一員なのでして…」 おれが黒川の名前を知っていて当然のように、倉田は話しているが、無理もない。 【黒川財閥】は、この日本の重工業から経済、政治、マスコミに至るまで影響力を持つ、巨大な組織なのだ。 その力は、日本の権力の中枢に及ぶ。 グループの会社は1000社を越える。  その大財閥が、この小さな「何でも屋」の俺に何か用があるとは、思えないが… なおも倉田は言葉を続ける。 「私のいる【黒川会】は黒川家の血族の為の組織なのです。 一般の方にはほとんど知られておりません。 しかし、資金力や人脈、社会的影響力は、強大です。いわば黒川グループの中枢とでもいいましょうか。 黒川の科学振興の為の研究の窓口でもあります。」  その【黒川会】の要人であろう倉田の次に口から出て来たのは、さらに意外な言葉だった。 「私どもは、梶山様の事を子供のころから存じております。 もちろんあなたの亡くなられたご両親とも面識が、ございます。 実は、黒川会は梶山さまのご両親の研究にも援助を差し上げておりました。」  黒川財閥と両親の関わりは俺の知らない事実だった。  俺の父、母の記憶は俺が中学生の時点で終わっていた。 俺の両親は二人ともミングスには珍しい学者だった。 母は歴史が専門で、父は機械工学を研究していた。 俺が14歳の時、飛行機事故でこの世を去った。 今でも俺の中に、学校では、教えない社会の仕組みや人間の在り方を両親は、残してくれた。 二人の口癖は 「知識は、大切なものだけれど一番重要なモノじゃない。愛こそすべてだ。」 だった。 そのセリフの陳腐さに家族揃って大笑いしたもんだ。
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