第二章 依頼

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第二章 依頼

  何でも屋「すなお」   独身、29歳   通称スナッピーの話 ………………………………  後頭部へ衝撃を感じて、その場に倒れた。 腹を蹴られた。 腹部に新たな痛みが加わる。 俺は、襲われたのだ。 激痛の中 誰かが、俺の革ジャンのポケットをさぐる。 財布を盗られた。 現金ならば、いつでも進呈差し上げる。 なにも、殴る事は、ないだろう。 正当な理由なく 俺の財布を持つ奴らが逃げてゆく足音が遠ざかる …  俺は、しばらく寝そべっていた。 痛みが怒りに変わるのに タバコ一本吸う時間もかからない。 …タバコ! 思い出した。 俺は、今、禁煙中なのだ。 冴えない話だ。 この浜辺の防波堤の上で シケモクを拾おうとしたその時に、俺は襲われた。 タバコ嫌いの幼なじみのケイとの待ち合わせの最中にね。 痛みと怒りのまま俺は 空を見上げた。 5月の空が、爽やかな午後だ。 防波堤のコンクリートに背をもたれ、座り直す。 海が、輝いている。 俺は、輝いていないなぁ。 まったく。 にが笑いがもれる。 「あータバコすいてぇ」 ぼやいても、財布はもどってはこない。 襲った奴らは、おそらく 【ミングス】だろう。 …【ミングス】か…  民族(ミンゾク)の 屑(クズ) とは、洒落た名前だ。 俺たちの じいさんが、この海を渡り、 日本に居ついた。 そして、混血を繰り返して どこの人種でもない 俺のような 【ミングス】ができあがった。  俺の髪と瞳は、茶色い。 黒人の先祖の血もあるようで、縮れ毛もある。 … 俺は、座ったまま 体のどこかに怪我ないか確かめてみた。 たいした事はないらしい。 今の日本では 強盗まがいの 出来事など 珍しくもない。 怪我がないだけ 幸運だ。 無理矢理納得できる程 日本の治安は 乱れていた…
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